賢人の雑学:「亀虎」か「北浦」か?
[賢人の雑学]
池田末則の地理魍魎 (2007.07.04)

「キトラ」は明日香村大字阿部山136‐1番地にある壁画古墳として有名―。「キトラ」関係の地名は奈良県内でも約110例以上もあって「木寅」「木戸羅」「甲寅」「木虎」などと書いています。
「キトラ」は同村、飛鳥時代の「豊浦」を「等由良」と読み、現在の「東浦」を「ヒガシラ」、「西浦」を「ニシラ」というように「北浦」の母音を省略、発音容易な「キトラ」に転訛したのです。つまり、大字阿部山の「アベ」を「安部」「阿倍」と書くように、地名は幾つかの用字に改変しています。
前記の「豊浦」は飛鳥川曲流の南側に、同大字南浦は天ノ香具山南面に立地、いずれも「浦」は表裏のウラ(陰地)ではなく、「浦戸」「浦賀」「勝浦」(潟浦)などのウラと同じく日射良好な境域です。
「キトラ古墳」は阿部山の東北方、小字「上山」に所在し、付近には小字「アベヤマ」「アベント」(アヱント)などに隣接し、問題の小字「北浦」は「上山」をやや離れて実在しています(条里制地図)。
昭和58年10月1日、「上山」に壁画古墳を確認したことから慎重な調査が始まりました。正式な古墳名がなかったので、即日、「亀虎古墳」と命名、各報道機関も高松塚古墳に次ぐ大発見として発表したのです。「亀虎古墳」は古風土記的な好字地名として間違いではありませんが、古墳名としての「キトラ」は他にも数ヵ所実在しているのです。このことは、当時の朝日新聞のコラム欄にもあったことが強く記憶に残っています。
筆者プロフィール

[日本地名学研究所長] 池田末則さん
元奈良大学講師(地名伝承学)、前奈良市文化財保護審議会委員・文学博士。著書に『日本地名学伝承論』(平凡社)、『地名伝承の研究』(KK名著出版)、『大和地名大辞典』(名著普及会)、近刊に『地名伝承学論』(クレス出版)など。古代の文化遺産としての地名の研究・保存につとめる。
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