賢人の雑学:殯の森 喪上―城上は同義の古語か
[賢人の雑学]
池田末則の地理魍魎 (2007.07.05)

本年5月28日、日仏合作映画「殯(もがり)の森」(奈良市・河瀬直美監督)が、第60回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞。この映画は奈良市内での風景を撮影されていて、市では「河瀬ワールド熱烈関心」が急上昇しています―。また、河瀬監督自身が「殯」の意味を調べたり、映画の構想を練ったりするために、大和の各地に足を運ばれたそうです。―(朝日新聞記事)。
この「殯」とは古代の葬祭儀礼で、荒木ともいい、本葬するまでのある期間を喪屋にこもったのです。語源は、「喪アガリ」→人を葬ることで、モガリ(母音脱落)に転じたもの。『日本書紀』の古訓では「殯斂」と書いて「モガリ」と訓み、『古事記』『万葉集』では「大殯」「殯宮」と書いて「アラキ」と訓んでいます。「アラキ」は墳墓のこと。別に「奥つ城」ともいったのです。
例えば、前方後円墳の群集する馬見丘陵(広陵町付近)には「城之上」「城宮」などの地名や、アラキ(新木山・仁基山)、新山(新城山の二字化)、紀三上(城之上の字形類似の誤写)など、「城」関係の古墳名が多くあります。『万葉集』に高市皇子が「城ノ上」の殯宮の時、柿本人麻呂の歌一首に
「ことさへぐ 百済の原ゆ 神葬りまして、あさもよし 「城ノ上の宮」を常宮と高く奉りて…」
とあります。つまり、皇子の喪葬に際し、喪屋をつくり、挽歌をうたい、喪車を引く遊部が、鷺姿の人を掃持となし、雉姿の人を哭女として冥界への道を浄めたのです(『古事記』上)。
宏壮な前方後円墳の仁徳天皇陵はモズノ(百舌鳥野)、雄略天皇陵はモフス(藻伏陵)、向日市のモヅメ(物集女)古墳など、「モ」(喪)や「城」にかゝわる地名が多く残っていて、城ノ上と喪上は同義の語とも考えられます。特に明日香村付近には喪葬関係の地名が残存し、旧宇陀郡稲戸で「モガリガサキ」の地名調査をしたことがあります。映画「殯の森」の主役者・うだしげき氏が、かつて小著『飛鳥地名紀行』(B6版300頁・ファラオ企画)の編集にご協力くださったことなど、懐かしく憶い出しています。
筆者プロフィール

[日本地名学研究所長] 池田末則さん
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