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賢人の雑学:稲荷さんの雀の話

[賢人の雑学]

池田末則の地理魍魎

稲荷さんの雀の話
池田末則の地理魍魎
 

京都市伏見区に「お稲荷さん」で有名な『延喜式』の稲荷大社があります。『山城国風土記』によると、

伊奈利社のイナリというのは伊呂具(いろぐ)の秦公(はたのきみ)が稲を積んで富祐(とみ)を有(たも)ちたが、彼は餅を的(まと)としたので、餅は白鳥となって山の峯に飛び去り、稲となって成り生(お)えた。この伊祢奈良(いねなり)が社(やしろ)の名となった。その子孫がさきの過(あやまち)を悔い、社の木を枝(ねこじ)にして家に殖えて祈り祭った。いま、その木を殖えて蘇(よみがえ)れば福(さきはい)を得、枯れたら福あらわれずということになった(訳)

とあります。このイネナリ(稲生)は「北浦(キタウラ)」がキトラに訛ったように、発音上、イナリに転じたもの。神社の祭神が御饌津(みけつ)神で三狐根(みけつね)神ともいわれます。後世、キツネを神使として尊ぶようになったとも。あるいは、ミケツネはミの美称、ケ(饌)ツ(助詞)根(稲(ケ)—米)のことで、「田の饌(け)」はたぬき狸と考える俗説も。また、大阪では狐の好きな「油あげ」のうどんを「ケツネうどん」といい、別に「信太(しのだ)うどん」というのは「信太の森」の狐の物語にちなんだもの。さらに「狐寿司(きつねすし)」は「稲荷(いなり)すし」ともいいます。といえば「きつね丼」もあります。

稲荷さんの雀の話面白いのは「狐のカミソリ」です。これは彼岸花のことで、秋ともなれば時雨(しぐれ)て雨が降ったり止んだり、まったく狐にだまされたようです。つまり「狐の雨降り」を、どう間違ったか「狐の嫁入り」に訛ったようです。狐の嫁入りにはカンザシが心要となります。このカンザシが彼岸花によく似合うことから、「狐のカンザシ」が訛って「狐のカミソリ」というようになったとも。

先日、稲荷大社に参拝し、宮前の食堂で雀の焼鳥の売ることを聞いたのです。雀は稔りの稲を喰い荒すことから、焼鳥にされると伺って驚いたのです。さらに驚いたことは、その雀が大和の国中(くんなか)で捕獲されるという事実です。古老の話では、初瀬川堤のある村(田原本町)では毎年20石の被害をうけ、約2万羽の雀を捕獲したそうです。同町には『万葉集』に「大依羅(おおよさみ)」を二字化した「大網(おおあみ)」や「鳥網張る坂手」などの地名が残っています。

筆者プロフィール

池田末則さん

[日本地名学研究所長] 池田末則さん

元奈良大学講師(地名伝承学)、前奈良市文化財保護審議会委員・文学博士。著書に『日本地名学伝承論』(平凡社)、『地名伝承の研究』(KK名著出版)、『大和地名大辞典』(名著普及会)、近刊に『地名伝承学論』(クレス出版)など。古代の文化遺産としての地名の研究・保存につとめる。

 

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