賢人の雑学:飛鳥川上の水分の神
[賢人の雑学]
池田末則の地理魍魎 (2008.07.11)


飛ぶ鳥のアスカという枕詞(まくらことば)から、「飛鳥」の地名が起こったという説があります。「古今集」には「飛鳥川、昨日の渕(ふち)ぞ 今日は瀬(せ)となる」とあって、常(つね)ならぬこの世のならいにたとえられています。
事実、飛鳥川は甜白梼(あまかし)丘、雷(いかつち)の丘をめぐり、曲りくねって流れているのです。川端の豊浦や和田の村名も、ウラ(入江)、ワダ(曲(わだ))の意を示す古代地名です。上流の細川・阪田・稲渕(いなふち)の村名も一種の地形名で、飛鳥時代の天皇は南渕・細川山の伐採を禁(いさ)め、旱天(かんてん)の時は、天を仰ぎ、四方を拝み、降雨の恵みを祈ったのです。
飛鳥川の山すその渕・瀬のために、各地に洲処地(すかち)を形成することから、スカに「阿(あ)」の美称を用い、アスカと命名したという説も。曲学阿世の「阿」は曲れるものを意味する古語で、淀・木津・佐保・熊野などの諸川にもアスカの地名を残しています。
また、飛鳥川の浅瀬・曲瀬の「浅ヶ瀬(あさかせ)」から「朝風」(奈良時代の)、曲瀬のアマガセから「甜白梼(あまかし)」の丘名が生まれ、「古事記」、「日本書紀」によると、「言八十禍津日の前(ことやそのまがつひのさき)」や「味橿丘之禍戸碑(あまかしおかのまがへのさき)」の川名以外に、「真神(まがみ)ヶ原」「甘橿(あまがし)の渡し」「アマガシ蛍」「アマガワセ」など、「マガ」にちなむ地名なども誕生し、この「マガ」にちなむ、盟神探湯(くがたち)の卜兆(まがごと)を行ったということが、「允恭(いんぎょう)紀」にみえます。
大阪府の中河内の飛鳥に「一須賀(いちすが)」の地名によく似た「一番合戦(いちまがせ)」という名乗りをあげそうな地名・姓名があります。この地名は「天ヶ瀬」と兄弟地名であった一種の形状地名です。
ちなみに、飛鳥川の発源地域には竜在(りゅうざい)峠、竜臥(りゅうが)峰(多武峰)、竜蓋(りゅうがい)山(岡寺)など、竜神(水神)信仰の峰々があり、石舞台上方には延喜(えんぎ)式内の気都和既(きつわけ)神社(茂古杜(もうこもり))があります。神社は細川と尾曽川の合流地(川合田)に鎮座する形勝地で、キツワケは「水分(みづわけ)」のこと。モコモリは「ミコモリ」で「水分(みこもり)」のことです。
吉野山水分(みこもり)明神、京都北山の壬生嶺(みぶね)の貴船(きぶね)神と同系の、飛鳥川上の水守(みずもり)の神社です。同神社前の新築石橋名が「茂古橋」「もうこ橋」で、きびしい猛虎の姿を刻んでいます。地名には意外な転化や改字・誤写があるのです。
筆者プロフィール

[日本地名学研究所長] 池田末則さん
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