賢人の雑学:狛犬・道標を訪ねて――斑鳩・飛鳥古道散策
[賢人の雑学]
池田末則の地理魍魎 (2008.09.11)


日本最古の仏教空間、国宝「法隆寺金堂展」が奈良国立博物館で開催を機に、私は「斑鳩町の歴史を知る会」の会員と共に、法隆寺付近の神社境内の狛犬と、明日香村の石製道標を調べることになりました(七月六日)。
梅雨時の暑い昼過ぎでしたが、興留(おきどめ)町の素盞鳴(すさのを)神社、阿波町の阿波神社、西町の蛭子(えびす)神社、下永(しもなが)町の八幡神社を巡歴し、各神社のすばらしい狛犬の芸術的遺物に驚嘆しました。
狛犬はいずれも和泉国産の石材で、石工は「石工の神」といわれた「丹波の佐吉」の遺作で、銘文によると、安政四年(一八五七)前後のもの。狛犬には「作師信照(花押(かおう))」(阿波)、「大坂住、石工佐吉」(下永)、と刻んでいます。
佐吉の遺作は、奈良県内では宇陀市古市場の水分神社の狛犬一対・灯篭一対、平井大師山供養塔、吉野丹生川上中社狛犬、久米県(くめあがたぬし)神社狛犬、伴堂杵築(ともんどうきつき)神社狛犬、天理市御霊(ごりょう)神社狛犬、松尾寺千手観世音(せんじゅかんぜおん)像などがあり、佐吉は「石の尺八」を製作した名工とも伝えています。
翌日、急に明日香村大字越(こし)の笠塔婆(かさとうば)型道標を調べました。道標の高さは約二メートルで、笠の様式、名所地名の豪快に刻んだ手法、一見して特徴のある佐吉の遺品と考えられます。特に細部までの四方仏の造形美は、一種の優雅さを示し、県内随一の文化財的道標石造遺物として、保存すべきかと思われます。ちなみに、道標には次の文字を刻んでいます。
(左)
おかでら、はせ
たふのミ祢 いせ 道
(右)
ちはら ごせ
こんかうさん 道
安政五戌午年八月吉日(一八五八)とあり、西国札所の岡寺、長谷寺、多武峯(とうのみね)、伊勢、茅原(役行者(えんのぎょうじゃ)誕生地)、御所、金剛山を指向しています。この明日香村には徳川時代には各地の名所(奈良・大坂・京・高野山など)を指向する道標(町石)が約六〇基あり、(県内では約一三〇〇基)もっとも古いのは明日香村大字川原の寛文十三年(一六七三)のものです。なお、本稿は「斑鳩町の歴史を知る会」の会員、入矢啓氏の写真撮影、現地案内と指導を受けたことを特記します。
筆者プロフィール

[日本地名学研究所長] 池田末則さん
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