賢人の雑学:登りつめた後は、落ちるだけ?
[賢人の雑学]
福井栄一の上方志向 (2007.06.24)

天皇の外戚として権勢をふるい、
この世をば わが世とぞ思ふ 望月の
欠けたることの なしと思へば
と悦に入っていた藤原道長(九六六〜一〇二七年)など、数少ない例外を除けば、古来、日本では、物事の完璧・完全なるを忌む傾向があった。
例えば、『徒然草』第八十二段には、こうある。
すべて何も皆、ことのととのほりたるはあしきことなり。しのこしたるを、さてうち置きたるは、おもしろく、生きのぶるわざなり。「内裏造らるるにも必ず作りはてぬ所を残すことなり」と或る人申し侍りしなり。先賢のつくれる内外の文にも、章段のかけたることのみこそ侍れ(何事に於いても、完全に整っているのはよくない。やり残したところをそのままにしておくのが趣深く、将来性もあるというものである。「内裏の造営でも、わざと未完成の箇所を残しておくものだ」と或る人が言っていた。昔の賢人たちが著した経典にも、章段の欠けたものがたくさんある)。
そういえば、江戸時代の町人たちが興じた座敷遊び「百物語」に於いても、わざわざ「百」物語と銘打っていながら、実際には、怪談は九十九で打ち止めとされた。
万一、誰かがこの禁を破り、百番目の怪談を披露してしまったら、話が終わるや否や、本物のもののけが現れ、その場に居合わせた者たちをとり殺してしまう、と固く信じられていたからである。
何事も貪り尽くし、骨の髄までしゃぶるのを常とする現代人を見るにつけ、「足るを知る」心性の消滅がくやまれてならない。
筆者プロフィール

[上方文化評論家] 福井栄一さん
大阪府吹田市出身。
上方舞を中心とする上方の芸能、歴史文化に関する評論を発表するとともに、各地で精力的に講演活動を行う。著書に、
『上方学』(PHP文庫)、『にんげん百物語』(技報堂出版)、
『大阪人の「うまいこと言う」技術』(PHP新書)、
『ぼく いちびり』(プラネットバルン)、など執筆多数。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~getsuei99/
上方舞を中心とする上方の芸能、歴史文化に関する評論を発表するとともに、各地で精力的に講演活動を行う。著書に、
『上方学』(PHP文庫)、『にんげん百物語』(技報堂出版)、
『大阪人の「うまいこと言う」技術』(PHP新書)、
『ぼく いちびり』(プラネットバルン)、など執筆多数。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~getsuei99/
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