賢人の雑学:夏といえば蜘蛛!?
[賢人の雑学]
福井栄一の上方志向 (2007.07.04)

俳句の世界では、「蜘蛛」は夏の季語の一つです。八本脚の奇怪な形状や独特の動き方のゆえに嫌われ者の代名詞となっている蜘蛛が、四季の中でもとりわけ明澄なイメージの強い夏と結びつけられて詠まれるというのですから、なんとも意外です。
何の予備知識もなく、「くもの糸 一すぢよぎる 百合の前」(高野素十)や「蜘蛛に生れ 網をかけねば ならぬかな」(高浜虚子)と聞かされて、夏の句だとピンとくる人が、どれだけいるでしょうか。
ところが、「夏=水が恋しい季節」と解すると、まんざら当てはまらなくもない、変わり種の蜘蛛がいます。
それが、ミズグモです。ミズグモは、名前の通り、ほぼ完全に水中生活をする体長1センチほどの黒褐色のクモで、クモ綱クモ目ミズグモ科に属します。欧州からアジア一円に生息しています。
誰しも真っ先に知りたい点は、「どうやって呼吸しているのか」ですが、勿論、魚のようにエラ呼吸するわけではありません。水中に膜状の巣を張り、この中に空気を貯め込んで、空気ドームを作り、その中で暮らすから窒息しないのです。ドーム作りの秘密は、毛深い腹部と脚。これらを駆使して器用に気泡を抱え込み、水中の巣まで何度も運んで、ドームをだんだん大きくしていきます。獲った餌(小型の水生昆虫など)を食べるのも、交尾も産卵も、すべてドームの中という次第。
ミズグモの日本での発見例は、極めて稀です。最初に発見されたのは、1930年のこと。場所は京都の深泥池でした。他には、北海道、青森県、大分県、鹿児島県など数例が報告されているのみです。なお、深泥池では、その後も1977年、1982年、1993年、1996年と連続的に観察されてはいるのですが、近年では、水質悪化や外来動植物種の侵入などによる絶滅が危惧されています。
夏の句題にお困りの俳人の皆さま。思い切って、世界に誇る貴重種ミズグモを詠んでみられては如何。
筆者プロフィール

[上方文化評論家] 福井栄一さん
上方舞を中心とする上方の芸能、歴史文化に関する評論を発表するとともに、各地で精力的に講演活動を行う。著書に、
『上方学』(PHP文庫)、『にんげん百物語』(技報堂出版)、
『大阪人の「うまいこと言う」技術』(PHP新書)、
『ぼく いちびり』(プラネットバルン)、など執筆多数。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~getsuei99/
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