賢人の雑学:その時、あなたなら何と詠む?
[賢人の雑学]
福井栄一の上方志向 (2007.08.31)


よく「辞世の句」といいますが、私たちが書物で目にする有名人の辞世は、俳句ではなく、和歌の形式が圧倒的です。万感胸に迫る最期の瞬間に、その心境をたった十七文字に凝縮して述べるのはさすがに難しい。そこで、字数にやや余裕があり、収まりもよい三十一文字で…ということになるのでしょう。
今日まで伝わっている辞世には、武将のものが多いです。平安時代の貴族なら、世の無常を感じるや、さっさと出家すれば済んだのですが、武将はそうはいきません。内面の葛藤を押さえ込みながら、戦を続け、殺生を重ねていかざるを得ない。そうした懊悩の生涯を回想しながら詠んだ辞世には、独特の味わいがあります。
かかる時 さこそ命の をしからめ
かねてなき身と 思ひしらずば
(太田道灌)
くもりなき 心の月を さきたてて
浮世のやみを 照らしてぞ行く
(伊達政宗)
つゆとおち つゆときへにし わがみかな
なにわの事も ゆめの又ゆめ
(豊臣秀吉)
これに対して、死を前にしても決して深刻ぶらず、自分の才知の絶好の見せ場とばかりに張り切って辞世を詠んだのは、文人たちです。
宗鑑は 何処へと人の 問ふならば
ちと用ありて あの世へといへ
(山崎宗鑑)
善もせず 悪も作らず 死ぬる身は
地蔵もほめず 閻魔叱らず
(式亭三馬)
此世をば どりゃおいとまに せん香の
けむりとともに 灰左様なら
(十返舎一九)
誰にでも、いつかは必ずやって来る、その時に、あなたなら、何と詠みますか?
筆者プロフィール

[上方文化評論家] 福井栄一さん
大阪府吹田市出身。
上方舞を中心とする上方の芸能、歴史文化に関する評論を発表するとともに、各地で精力的に講演活動を行う。著書に、
『上方学』(PHP文庫)、『にんげん百物語』(技報堂出版)、
『大阪人の「うまいこと言う」技術』(PHP新書)、
『ぼく いちびり』(プラネットバルン)、など執筆多数。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~getsuei99/
上方舞を中心とする上方の芸能、歴史文化に関する評論を発表するとともに、各地で精力的に講演活動を行う。著書に、
『上方学』(PHP文庫)、『にんげん百物語』(技報堂出版)、
『大阪人の「うまいこと言う」技術』(PHP新書)、
『ぼく いちびり』(プラネットバルン)、など執筆多数。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~getsuei99/
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