賢人の雑学:大黒天の七変化
[賢人の雑学]
福井栄一の上方志向 (2007.11.05)


実りの秋、収穫の秋。日本人がまっさきに連想するのは米(こめ)であろう。
いまでこそ、米は味気ないビニル袋に入れて売られているが、その昔は、米といえば米俵、それが常識だった。
その米俵を踏まえて破顔一笑するのが、大黒天である。
大黒天は、もともとインドの武闘神。憤怒相(ふんぬそう)といって、悪者に対して正義の怒りをあらわにする、おっかない顔をした神サマで、破壊と豊饒のシンボルであった。やがて、中国に伝えられるや、豊饒神としての性格だけが残り、厨房の神サマとして祀られるようになった。日本もその中国型の信仰を踏襲している。
さて、こうして「大黒天=台所の神」という認識は、ひとつの隠語を生んだ。梵妻、つまりは僧侶の隠し妻のことを、大黒天あるいは大黒と呼ぶようになったのである。「大黒天→厨房の神サマ→一家の台所をあずかる妻」という連想からであろう。僧侶が戒律をおかしてまでゲットする女性だから、きっと弁天サンのような美女に相違ない。とすれば、「弁才天のような大黒天」ということであって、どうも話がややこしくなる。 こんな話がある。
名作と誉れ高い大黒天像を拝ませてもらおうと、檀家の総代が寺へやって来て、「ご秘蔵の大黒天を一目見せて頂きたい」と和尚に頼んだ。和尚はかたくなに拒んだが、総代があんまり熱心に頭を下げるので、「他言無用ですぞ」と言うや、奥へ引っ込んだ。
しばらくすると、年増の美女を連れて来た。総代が驚いて「イヤイヤ、勘違いされては困りまする。ワシがお目にかかりたいのは、この御方(おかた)じゃのぅて、本当の大黒さんの方じゃ」と言うと、和尚は「ウーム。そこまでご存知ならば致し方ない。貴殿じゃによってお目にかけるのですぞ」と言い捨てるや、またしても奥へ入って行った。
そして、しばらくすると、頬を赤らめた十六、七歳の少女を連れて出て来た。
破戒も、ここまでくれば立派なもの。
筆者プロフィール

[上方文化評論家] 福井栄一さん
上方舞を中心とする上方の芸能、歴史文化に関する評論を発表するとともに、各地で精力的に講演活動を行う。著書に、
『上方学』(PHP文庫)、『にんげん百物語』(技報堂出版)、
『大阪人の「うまいこと言う」技術』(PHP新書)、
『ぼく いちびり』(プラネットバルン)、など執筆多数。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~getsuei99/
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