賢人の雑学:皐月の商魂、ここにあり
[賢人の雑学]
福井栄一の上方志向 (2008.05.02)


陰暦五月の異称は「皐月(さつき)」。「さ」は稲の古語ですから、「さつき」とは、「稲の月」つまりは「田植月」のことです。
「さつき」を詠み込んだ多くの和歌の中で、古典の教科書にもたびたび登場する名歌が、 さつき待つ 花橘(はなたちばな)の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする (『古今和歌集』よみ人しらず)です。
橘については、『古事記』や『日本書紀』が面白い逸話を伝えてくれます。 第十一代垂仁天皇の御世のこと。田道間守(まじまもり)は、天皇の命により、不老不死の妙薬である「非時香果(ときじくのかぐのこのみ)」を求めて、「常世国(とこよのくに)」(海のかなたにあるという伝説の仙境)へ赴きました。苦節十年、ようやく件(くだん)の果実を入手した田道間守は急いで帰国しましたが、時すでに遅く、垂仁天皇はすでに崩御していました。田道間守は持ち帰った非時香果の半分を天皇の御陵に、残り半分を皇后に捧げると、やがて悲嘆のうちにこの世を去りました。そして、この非時香果こそ、現在の橘であるというのです。
ご丁寧なことに、「たちばな」の語源を、「田道間花(たぢまばな)」の転訛とする説もあります。
なお、橘はその独特の香りや味ゆえに、菓子としても珍重されましたから、「非時香果」を日本へもたらしてくれた田道間守は、いつしか「菓祖」(菓子の神様)と崇められるようになりました。
このため、彼を祭神とする中嶋神社(兵庫県豊岡市)は、全国の菓子製造業者の篤い信仰を集めています。
ちなみに、最近では、大和橘の果汁を混ぜたキャンディー「非時香果」、熊野地方の大橘(おおたちばな)を原料にしたリキュール「非時香果」などのアイディア商品が人気。
現代人の商魂の逞しさには、さしもの田道間守もビックリでしょう。
筆者プロフィール

[上方文化評論家] 福井栄一さん
上方舞を中心とする上方の芸能、歴史文化に関する評論を発表するとともに、各地で精力的に講演活動を行う。著書に、
『上方学』(PHP文庫)、『にんげん百物語』(技報堂出版)、
『大阪人の「うまいこと言う」技術』(PHP新書)、
『ぼく いちびり』(プラネットバルン)、など執筆多数。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~getsuei99/
バックナンバー
- [賢人の雑学] 福井栄一の上方志向 『皐月の商魂、ここにあり』 (2008.05.02)
- [賢人の雑学] 福井栄一の上方志向 『適塾だけじゃないんです』 (2008.04.30)
- [賢人の雑学] 福井栄一の上方志向 『『桜につきものなのは…』』 (2008.03.29)
- [賢人の雑学] 福井栄一の上方志向 『東西のコペルニクスは、2月がお好き?』 (2008.02.29)
- [賢人の雑学] 福井栄一の上方志向 『ネコはどうしてネズミを追いまわすのか』 (2007.12.28)



