大人組

賢人の雑学:平成の遣唐使のぼやき

[賢人の雑学]

福井栄一の上方志向

平成の遣唐使のぼやき
福井栄一の上方志向
 

以前、北京を訪れたときのこと。

観光シーズンが終わった直後だったからか、北京名所めぐりツアーの参加者は、なんと私ひとり。

中国人ガイドは、現地の大学生。出発当初、「こんな若者で、ほんまに大丈夫か」と思っていたことを、ここで白状せねばならない。

やがて、めざす紫禁城に着いた。私とガイドは二人で、広大な敷地へわけ入った。驚かされたのは、ガイドのおニイチャンの該博(がいはく)な知識。メモ類をいっさい見ずに、中国の王朝の衰亡や紫禁城にまつわる秘話を、存分に語ってくれる。しかも、彼にとっては外国語である日本語で、だ。

また、その語り口たるや、日本の観光ガイドにありがちな丸暗記式ではない。ある時は、壮麗な宮殿を背に勇ましく、またあるときは、石壁の彫刻を撫でさすりながら恍惚(こうこつ)と…。要は、付け焼き刃ではない自分のことばで、自国の歴史・文化を誇らしげに語ってくれたのであった。

さて、帰国後、私は、大阪市内の某所で菅原道真について講演した。講演後、ひとりの私大生がやって来て言うには、「天神さんというのは、菅原道真のことだったんですね。初めて知りました。勉強になりました」。

小学生ではなく、れっきとした大学生の言である。

日本人学生のうちのいったい何割が、自国の歴史を外国人に的確に解説するだけの教養を持ちあわせているか。しかも、外国語で!

想像するだけで、うすら寒い思いにとらわれる。

かの中国人ガイドと大阪の某私大生。彼我(ひが)の差は、あまりにも大きい。自国の歴史への関心、鋭敏な感性、問わず語りの情熱…。

正史によれば、寛平(かんぴょう)六(八九四)年九月に、菅原道真の進言によって遣唐使は廃止されたというが、先方の若者たちの優秀さを見るにつけ、日本が中国に学ぶべき点は、まだまだたくさんあるように思われる。

筆者プロフィール

福井栄一さん

[上方文化評論家] 福井栄一さん

大阪府吹田市出身。
上方舞を中心とする上方の芸能、歴史文化に関する評論を発表するとともに、各地で精力的に講演活動を行う。著書に、
『上方学』(PHP文庫)、『にんげん百物語』(技報堂出版)、
『大阪人の「うまいこと言う」技術』(PHP新書)、
『ぼく いちびり』(プラネットバルン)、など執筆多数。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~getsuei99/

 

バックナンバー