賢人の雑学:女の業と紅葉
[賢人の雑学]
福井栄一の上方志向 (2008.11.11)


「秋、紅葉」と聞かされると、芝居好きの人なら、歌舞伎『紅葉狩(もみじがり)』を思い出すことでしょう。
平維茂(たいらのこれもち)が、家来を引き連れ、信州戸隠山(とがくしやま)へ紅葉見物にやって来たときのこと。意外にも山中には、先客がいました。更科姫(さらしなひめ)という美しい姫君とその侍女たちでした。誘われるまま宴に合流した維茂は、姫の色香と勧められた酒で酔いつぶれ、不覚にも、うたた寝をきめこんでしまいます。
やがて、維茂の油断につけこんだ姫は、鬼の本性をあらわして、維茂に襲いかかりますが、維茂はちょうど携えていた名刀・小烏丸(こがらすまる)のおかげで、鬼の魔手から逃れることが出来たのでした。
1人の俳優が、美しい姫君(前半)と恐ろしい鬼女(後半)を演じ分け、踊り分けるのが見どころです。
ところで、この『紅葉狩』に限らず、古典芸能に「鬼女」はつきものなのですが、一口に鬼女といっても、2つのパターンがあることは、あまり意識されていません。
第一は、鬼が美女(なぜか醜女(しこめ)ではないのです)に化けるパターン。上述の『紅葉狩』はこちらの例です。つまり、美女はあくまでも仮の姿であって、本性は鬼という場合です。
第二は、美女(どういうわけか、たいていは美女)が鬼と化すパターンです。能『鉄輪(かなわ)』に登場する女が典型例ですね。つまり、もともとは人間だったのに、恋する男への嫉妬や恨みの念の深さのゆえに、鬼の姿に変じてしまうのであります。
鬼から女へ。女から鬼へ。こうしたメタモルフォーゼ(変身)だけでも驚異なのに、「女心と秋の空」という俗言の通り、女性は、外見のみならず感情も千変万化させて、男性を翻弄します。その鮮やかな変貌ぶりは、温度や湿度によって色変わりする紅葉のようです。
こう考えますと、更科姫が、花見ではなく、紅葉狩にご執心だったのも、なんだかうなずけますね。
筆者プロフィール

[上方文化評論家] 福井栄一さん
上方舞を中心とする上方の芸能、歴史文化に関する評論を発表するとともに、各地で精力的に講演活動を行う。著書に、
『上方学』(PHP文庫)、『にんげん百物語』(技報堂出版)、
『大阪人の「うまいこと言う」技術』(PHP新書)、
『ぼく いちびり』(プラネットバルン)、など執筆多数。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~getsuei99/
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