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賢人の雑学:大晦日の攻防

[賢人の雑学]

福井栄一の上方志向

大晦日の攻防
福井栄一の上方志向
 

年(とし)がおしせまると、現代人は「ワーイ、年越しだ」「もうすぐ新年やでぇ」とむやみにはしゃぎまわるが、江戸時代の庶民の大半は、そうはいかなかった。なにせ、大晦日に自宅へ押しかけてくる大勢の「掛け取り」すなわち借金取りを、どうにかしてやりすごさないことには、年を越せなかったのである。

もちろん、つつましく暮らす彼らが、奢侈(しゃし)に流れて借金漬けだったはずはない。事態はもっと切実であった。

当時の人々は、米、味噌、醤油、油などの生活必需品を、商人に「掛け売り」してもらって購入した。そして、節せ っき季ごとにまとめて代金を払うのが、通例であった。

ところが、そこは庶民の哀しさ。いつだって手元不如意なので、勘定は溜まる一方。そこで商人たちは、大晦日になると、顧客の家を1軒ずつ回り、その年のツケの清算を迫るのであった。

さて、商人に往訪される側は必死である。なにをどうがんばってもない袖はふれず、とにかく支払いを猶予してもらうほかない。しかし、向こうも商売だから、居留守をつかったくらいでは、引き下がらない。では、どうするか。

落語『掛け取り』に登場する熊さんの奇策を紹介しよう。

曰く、「借金取りの好きなもので断りを言え。人間たるもの、好きなものには心奪われるから」。

例えば、動物好きの借金取りが来たら、「うちは今年、拍子の悪いことがメジロ押しで、お金がぎょうさんイリオモテヤマネコですねん。もうキリンキリン舞いですわ。アザラシぃ年が来たら、夜もネズミ働いて返シマウマっさかいに」と謝れ。すると、相手は「今日のところはこのままイノブタとするさかい、また来年アオウミガメ」などと言って、きっと許してくれるはずだ…。

熊さんは、ほかにも、「芝居好き」、「ケンカ好き」の借金取りの撃退法も、口上入りで具体的に伝授してくれる。知りたいという御方は、いますぐ寄席へ!

筆者プロフィール

福井栄一さん

[上方文化評論家] 福井栄一さん

大阪府吹田市出身。
上方舞を中心とする上方の芸能、歴史文化に関する評論を発表するとともに、各地で精力的に講演活動を行う。著書に、
『上方学』(PHP文庫)、『にんげん百物語』(技報堂出版)、
『大阪人の「うまいこと言う」技術』(PHP新書)、
『ぼく いちびり』(プラネットバルン)、など執筆多数。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~getsuei99/

 

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