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賢人の雑学:熊野古道のダル神

[賢人の雑学]

森本剛史の深旅遠望

熊野古道のダル神
森本剛史の深旅遠望
 

先日、世界遺産である熊野古道を歩いてきた。難所の一つ、雲取越えである。那智から小口までを大雲取越え( 14.5キロ)、小口から本宮大社方向に行くのを小雲取越え(13キロ)という。高低差は600メートルもあり、最高地点は900メートル。1泊2日のけっこうきつい行程だった。

当日、熊野語り部のKさんと一緒に歩いた。彼の話で面白かったのは、熊野の山中で旅人に取り付くダル神(ヒダル神)のことだ。和歌山が生んだ天才・南方熊楠も、雲取でダルに取り付かれ「急に脳貧血を起こすので、精神茫然として足進まず、一度は仰向けに仆(たお)れたが…」と、記している。

「山道や峠を歩いていると、突然激しい飢餓感に襲われるそうですわ。足が前に進まなくて、そのまま倒れてしまいます。それを地元では『ダルに付かれた』と言うんです」とKさん。「古老たちは、山中で亡くなった無縁仏の亡霊が彷徨っていて、人に付くんや、と言っています。動けんようになったら、まず何か食べろと、僕らに忠告してくれます」。熊野のきこりや山中を歩く人は、ダル対策として必ず弁当の一部を残しておくそうだ。

古道取材のあと、実際にダルに付かれた人に会うことができた。「高校の山岳部の訓練で雲取越えをやっているときに、それまで元気やったのに、突然体が動かんようになっての。必死になって、近くの木の実を探して口に入れたら、しばらくして治った」。

その原因は、空気が一ヵ所に沈滞し酸欠になるという説や、熊野山中には銅山など地下鉱物が多いので、そこから悪いガスが流出しているという説などがあるが、本当の原因はまだ分かっていない。

新宮の僕の実家の前の通りも熊野古道のひとつだ。海辺の古道・大辺路(おおへち)の一部で、今や舗装された通りだから、古道の雰囲気は皆無。ダルが出た話は一度も聞いたことがない。雲取越えの後は、だるくて疲れた(親父ギャグ?)

筆者プロフィール

森本剛史さん

[トラベルライター] 森本剛史さん

和歌山県新宮市出身。
立教大学時代(1970年)、初めての海外旅行を体験し、以来訪れた国は95カ国におよぶ。年間100日は海外。執筆した旅行ガイドブックは『エリアガイド バリ島』(昭文社)をはじめ19冊。旅行記を載せたサイト「旅好堂」が好評。
http://homepage3.nifty.com/ryokodo/

 

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