賢人の雑学:桧の話
[賢人の雑学]
中村義明の一棟梁談 (2007.07.04)

お茶室の建築材料において桧材は土台の部材にしか見られない。柱や桁及び壁の下地材は杉材で、構造材は松である。昔から日本人は桧の建築が一番であり、武家社会においては、身分制度によって武家以外の階級の人々は桧を家の材料として使えず、一部の裕福な商人は桧材に着色して使用している。特に近世においても関東は桧を一番価値のある建築素材として評価し、桧の特性である白さや腐りにくさを好む。伊勢神宮の鳥居や正殿、そして宇治橋などが桧であり、全国の神社が桧材を使用したことが日本の木造建築に大きな影響を与えたと思われる。
関西の神社や宗教建築においては、桧の優位はあるが栂や赤松なども多く建築に使用されている。伊勢神宮が20年ごとに遷宮されるのは、桧材の表面が風雨によって汚れ黒くなるので作り替えされる、と私は信じている。神道において清らかさ=白さは大変重要で、その清らかな大鳥居や正殿に自然に我々は頭を下げるのである。
確かに桧は腐りにくく、建築素材としては素晴らしいが、一部天然木の桧を例外として、通常の植林された桧は、木目における冬目と夏目の経年変化において、栂や杉及び赤松の経年変化に比べると、「もののあわれ」を好む我々日本人の美意識を満足させていない。桂離宮の縁側に見られる板目の杉の床材の木目や、栂材や赤松材の冬目と夏目の硬さの違いが、経年変化によって強く年輪を感じさせ、まるで老人の皮の皺や土門挙氏の写真のように手の皺がその人の人生を表しているが如く、建物の歴史を力強く表している。
桧材の経年変化による良さは、実は100年単位でなかろうか。杉や栂のように木目において冬目だけが目立つには、10年や20年では「もののあわれ」は表面に表れにくく、特に近世の人の手によって植樹された人工林の桧は堅牢であり、白さだけが清らかさを表わすが、素材が醸し出す力強さに関してはいまひとつ最上の素材ではない。
筆者プロフィール

[中村外二工務店代表] 中村義明さん
数奇屋建築の名匠、故中村外二の次男。菊乃井本店、俵屋、MIHO美術館造園など、全国の伝統建築・改修工事に多数従事。
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