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賢人の雑学:老いと仲良く

[賢人の雑学]

中村義明の一棟梁談

老いと仲良く
中村義明の一棟梁談
 

一ヵ月前、ついに膝を痛めてしまった。小生も60歳になり、初老の兆候が出始めている。膝に水が溜まっているようで、湿布や整体師にも治療していただいたが、なかなか治癒するものではない。かつて読んだ貝原益軒の「養生訓」を思い出す。「老いと仲良くしろ」。自分自身60歳とは信じ難いのだが、体が知らせてくれる。実父・中村外二は「建築家は60歳からだ」という言葉を残しているが、万全の体で建築に取り組んでいけるか、少し不安が募る。一ヵ月も足を引きずり現場を回ったり、打ち合わせに入る。今もこの文章を書きながら膝に手をあてがい始めている。60年間使ってきた関節が呻いている。この痛さと仲良くしろと呻いている。人間はいつかこの状況に接するのである。

先日、88歳の元気な私の顧客が脳梗塞で入院されたが、11月には退院されるとのことで、住居を改装することになった。彼の家族と話し合い、改装案を検討し始めている。打ち合わせの中心は84歳の奥様、そして娘さんたち。高齢の奥様に色々決定させる質問は許されない。私も若い頃は何でも建築主に聞き、個々の決定を委ねたものだが、今は出来る限り自分の範疇で判断し、責任を持って決定している。これも経験の積み重ねである。好き嫌いも、長年の顧客との関係により、建築主は私を信じてくれる。重ねた年齢や多くの失敗のお蔭でもある。

40年の建築一筋の人生は、物事の裏表を教えてくれる。多くの出会った人々から教示された事実を懐かしく思い出す。階段の蹴上りの寸法、踏面の寸法などで建築家の年齢がわかる。元気な若い建築家の階段は、老人にとって優しくない場合が多い。料理においても、若い料理人や仲居さんが御飯茶碗に自分が食べる感覚で御飯を多く盛る。昔、京の名女将・土井のお母さんの御飯の盛りつけは少なく、「どうぞお替わりを」との言葉と一緒に盛りつけられたものだ。建築においても、重ねた年齢が多くの要素を決定する。「建築家は60歳からだ」という外二の言葉が、少し解り始めた。

若い人たちに、この膝の痛さから教えられた建築の機能の要素を知らしめていくことが、初老の建築に関わる人間の役割である。今後10年、20年と建築と関わり、建築を愛していきたいものだ。

筆者プロフィール

中村義明さん

[中村外二工務店代表] 中村義明さん

1946年、京都生まれ。
数奇屋建築の名匠、故中村外二の次男。菊乃井本店、俵屋、MIHO美術館造園など、全国の伝統建築・改修工事に多数従事。

 

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