賢人の雑学:京料理の器
[賢人の雑学]
中村義明の一棟梁談 (2008.01.31)


40年以上の親交がある「英ちゃん」こと高橋英一氏は、南禅寺門前の瓢亭14代当主であり、京料理界の重鎮である。彼は今日の日本料理を国内そして海外にまで、彼の料理技術だけでなく、その心や考えを人々に教え伝承している。彼は私に、あまり彼自身が飲まないコーヒーを自ら作って、嬉しそうに出してくれる。ある時は、日本料理には出ないローストビーフを作ったと言って、家にまで持ってきてくれた。彼は本当に、自ら作って人に「食」を提供することが好きなのだ。
彼曰く、日本料理において基本は「だし」である。京料理において大変重要なのは、軟らかい水である。昆布でだしを取ると優しい味、ホッとする味になるという。関東のだしは鰹が勝って、その動物性でメリハリがはっきりするという。昆布だしは植物性でまろやかさを醸し出し、料理の品格と格調を表す。京料理の真髄はここにあると指摘している。
京都と東京を比較すると、建築においても同様である。京都の近代建築は別として、我々の日本建築は高度な建築本来の機能が重視され、デザインは与えられた素材や建築環境を技術的に支える手法として用いられる。言い換えれば、建築自身が創り出す機能が不十分であれば、その建築は建築空間が一見良くても、建築物でないと指摘しても過言ではない。
ある料理屋で夏の時期、あまりにも料理が塩辛く感じたので厨房を拝見すると、空調がうまく作動せず、料理人の作業環境が悪い。その結果、味付けしている料理人自身の中に、自然と塩辛くなる要因があったのだ。厨房における照明計画も重要で、特に盛り付け台の光源は、客座敷の光源と同一にすべきである。私自身、いくつか京都の老舗料理店の建築デザインや施工に関わったが、京料理とは使われる食材を十分に選び、食材に手を添えるくらいのシンプルな料理である。
まろやかな味は人々に安らぎや和らぎを与え、選び抜かれた食材の提供は、神々への供物のようなもので格調ある料理になる。この食材の置かれる建築空間の客席は、和らぎと格調と相反する関係の中で如何にあるべきか。私自身、日々苦悩苦闘しているのであり、楽しいものでもある。
筆者プロフィール

[中村外二工務店代表] 中村義明さん
数奇屋建築の名匠、故中村外二の次男。菊乃井本店、俵屋、MIHO美術館造園など、全国の伝統建築・改修工事に多数従事。
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