賢人の雑学:手当て
[賢人の雑学]
中村義明の一棟梁談 (2008.02.29)


先頃、小説家・渡辺淳一氏が触れ合い効果について話されていた。子どもが熱っぽいと言えば頭に、お腹が痛いと言えばお腹に手を添えると、それだけでも子どもは安心し、多少の熱や腹痛も落ち着いてくる。しかし最近の母親はこの手当てを忘れて、子どもがどこか悪いと言うとすぐ医者に連れて行く。まず手を触れて相手の気持ちを確かめることが大事だと、医者の経験のある彼の話に共感した。
手の感触でものを感じることは、人間にとって大変大事である。人間同士だけでなく、建築についても同様だ。古建築の見学などで素材に手で触れたり足で触れたりすることで、素材の堅さや柔らかさを感じ、その建築がより理解できるものである。案内人が柱等に触ることを禁じない限り、自分の手で触り、感じてほしい。今頃の住宅などは見た目の形や色彩だけで、木目を貼った木目素材からは何も伝わってこない。
海岸の砂浜を素足で歩くと、なんとも気持ちがいい。清らかな渓流の水辺で手や足を伸ばし、水に触れると気分が洗われる。腕を広げて体全体でそよ風を感じると、自分の存在自体を感じる。体の一部や体すべてでものと触れ合うことにより心が洗われることは、万人が経験していることである。自然の中で、森や渓流に身を置けば感じられるのである。
現代人は何事も知識や言葉、または数値で物事を知る。知ることと感じることの間には、大きなギャップがあることを知るべきである。心に起こる感激を感じ得ない。体で感じると自分自身の周りから自分の存在を感じるのであり、時として周りに対して感謝するのである。若い頃は自分の体内だけでものを見て知り、考えて判断する。人間は体外と触れ合うことで、自己を発見するのである。
母親が子どもに手を当てることで、言葉でどのように表現するよりも強く親子の絆を形成するように、自らの手で建築の素材に触れることが、建築と会話し、理解できるのではないだろうか。今後、社会がインターネットなどでますます身近になったといっても、それはただ単なる知識であって、本当に理解できたのか解らないように思われる。
筆者プロフィール

[中村外二工務店代表] 中村義明さん
数奇屋建築の名匠、故中村外二の次男。菊乃井本店、俵屋、MIHO美術館造園など、全国の伝統建築・改修工事に多数従事。
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