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賢人の雑学:伝統における素材と職人

[賢人の雑学]

中村義明の一棟梁談

伝統における素材と職人
中村義明の一棟梁談
 

京都の三大祭りである葵祭りが例年通り行われた。今回は斎王代の十二単の衣装が、25年ぶりに人間国宝の喜多川俵二氏により新調された。先日その喜多川氏と、今日の伝統産業における問題点を話し合った。喜多川氏の十二単の製作工程における大きな問題は、素材であったという。良きものを製作する技術は日々の厳しい修行で伝承できても、素材を集めることの難しさや、丁寧な仕事で素材を作る職人や職方がこの世から消されていく、と嘆いておられた。作品の価値のわからない人々に作品が評価され、見た目だけのものが作られているとも指摘された。

木造建築の世界でも同様なことが起こっている。いかに安くリーズナブルに建築するかが現代の流れで、薄っぺらで見た目だけの、時代の経年変化に対応しないものが増えている。建築は大工をはじめ多くの職人、職方によって施工される。新築現場では、畳や襖を入れる前に「洗い」と言われる工程がある。大工が白木の木造空間を施工する時、手垢や養生跡が付いたり、埃や塵が付くので、美しく掃除をして建築主に引き渡すのだ。今日では一般的に美装と呼ばれ、洗剤や薬品で汚れを落とし完成する。しかしながら、私達の本物の素材を使った木材は、現代の美装では逆に素材を傷めることにもなる。敷居や棚板に使われる赤松は、自然に適度なヤニを出し、表面を守り輝かせる。だが一般の美装の職人は、自分達の仕事の合理性、いかに速く、いかに楽に仕事が出来るかで洗剤や薬品を使うため、天然の素材の表面を傷めてしまう。悪い洗剤で手などを荒らしてしまうのと同じだ。

私が一緒に仕事をしている「洗い屋さん」は、出来る限り洗剤や薬品を使わず汚れを落とし、木材を傷めないように根気良く仕事をする。手間を惜しまず素材を生かすように洗い、適材適所に使われたその素材の特性を生かし、大工によって傷つけられた表面を復活するのだ。時には植物蝋などで一時的に素材の表面を守ったりもする。効率からすると通常の3倍も4倍も時間が掛かる。だが、私たちの使用する木材は、私たちより3倍も4倍も長く生きてきた素材である。10年後、20年後、100年後に生き生きと生きる素材を、100年も生きない人間が自分勝手に使ってはいけない、と思うのだ。

筆者プロフィール

中村義明さん

[中村外二工務店代表] 中村義明さん

1946年、京都生まれ。
数奇屋建築の名匠、故中村外二の次男。菊乃井本店、俵屋、MIHO美術館造園など、全国の伝統建築・改修工事に多数従事。

 

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