大人組、美味しい店101軒、The Whisky Worldなど雑誌・書籍販売

賢人の雑学:イルカ漁

[賢人の雑学]

中村義明の一棟梁談

イルカ漁
中村義明の一棟梁談
 

第82回米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞をイルカ漁の「ザ・コーヴ」が受賞し、太地町の町長や町漁業協同組合の人々が困っているニュースが流れました。今日、世界中を瞬時にニュースや映像が駆け巡り、国々固有の善悪が一方的な解釈で流される。我々日本人は海に囲まれた国民で、近海で獲れる生物を食の糧として生活しています。この映画のルイ・シホス監督はイルカ漁がなくなり、この入り江が本来の国立公園として日本の人々に戻ることを期待しているという。人間は生きるために食事をし、自然界に生きているのです。彼の価値観は、イルカはより人間に近い生物で、牛や植物は別の生物ということなのでしょうか。

西欧、特にキリスト教世界は、基本的に「我思うに我有り」のデカルトの世界で人間中心主義です。日本民族は古来より自然崇拝で天台本覚論の世界で、人間も草も木も同様でこの世に生かしてもらっている。私自身、子供の頃から食事の時は感謝し、食事を頂く。茶碗の中の米一粒まで残さないよう生物を頂き、そのエネルギーで社会に還元するのだと父や母に教えられてきました。日本人的考えでは、我々の食物としての糧は動物だけでなく、生物全てです。植物すら命が存在し、人間の価値と同じです。

昔、京大の竹博士である上田弘一先生は、京都近郊の大きな竹林がなくなっている現状を「これは殺人だ」と叫んでおられました。竹にも人間と同じ命があるのだと。私自身、家業として多くの木材や竹を切り、加工し建築物を造ってきました。素材である山の木材を生かすことを心がけてきたのです。生命力のある木材も出来る限り無駄にせず、木材を生かすのです。100年生の木は100年、200年生の木は200年生きていけるのです。

私ども人間は、残念ながら他の生き物の生命を必要とします。その生命を生かす、生かさないかは我々自身です。イルカ漁の町、太地町の人々がイルカから頂いた命を大きな命として生かすなら、私はイルカ漁も理解出来ます。この飽食の時代、若い人達が胸を張って生物を頂くことの重要性を感じてもらいたいと思います。

筆者プロフィール

中村義明さん

[中村外二工務店代表] 中村義明さん

1946年、京都生まれ。
数奇屋建築の名匠、故中村外二の次男。菊乃井本店、俵屋、MIHO美術館造園など、全国の伝統建築・改修工事に多数従事。

 

バックナンバー