賢人の雑学:鉄人628号の宿
[賢人の雑学]
井村日登美の日々宿日 (2008.02.29)


昨年の暮れに、日本料理業界の鉄人、大田忠道氏の宿に行ってきた。奥有馬の静かな環境のなか、ゆったりとした佇まいのこの宿は「天地の宿 奥の細道」。その名の通り、有馬の旅館街のにぎわいを通り抜け、山へと向かう細い道を登り、小さな川にかかる小橋を渡ったところにあった。
旧保養所だった宿は、浴場にまで畳を敷き詰めた全館畳敷きという快適さ。スリッパレスが、これほど気持ちの良いものだったのか。改めて日本人のDNAが脈々と流れていることを実感。思わず「最高!」と叫んでしまうほどだ(オーバーですが)。そして、初体験の畳敷き浴場は、まさに非日常の空間。いくら家庭の風呂が充実したからとはいえ、自宅に畳敷きの風呂がある、という人はどれほどいようか。
客室は和洋いろいろ。露天風呂付きもある。わずか10室なのだが、多彩すぎて説明できない。だから、いろいろなのである。
ところで、大田先生といえば「料理の鉄人」で、かの坂井宏行氏に勝った男。あの大きな体と大きな手で、どうしたら日本料理のあれほど繊細な表現ができるのか。繊細とは大きさに関係ないことが鉄人を見てよくわかった。
その鉄人をさらに“鉄人”と思ったのは生き様である。鉄人には弟子がいっぱいいる。全国各地にとにかくいっぱいいる。師匠が“鉄人28号”なら弟子たちは“29号”“30号”と続き、聞けば“鉄人628号”はいるという。みんな鉄人28号を「おやっさん」と呼んでいる。
「奥の細道」の鉄人は弱冠26歳。鉄人何号なのかわからないが、若い感性を素直にいかした料理が出てくる。綿菓子、金箔、神戸牛のすき焼き、鍋いっぱいの岩海苔の汁物、鴨にあなごのバーナー焼き、そして液体窒素のシャーベット…。料理の大半は料理人が目の前で作り、パフォーマンスも美味しさの一部となっている。鉄人28号は言う。「若い人たちにどんどん活躍の場を与え、若い人たちが夢をもって働ける業界にしていきたい」。今も鉄人は増え続けている。
筆者プロフィール

[ホスピタリティ研究所「エイチ・ワン」代表] 井村日登美さん
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