賢人の雑学:ある美術商の志
[賢人の雑学]
中 博の複眼涼視 (2008.09.11)


銀座一丁目に小さな画廊「一穂堂サロン」がある。サロンのオーナーは心地よき関西弁を駆使する大阪樟蔭出身のパワフルな女史、青野恵子さんである。「誰かがやらんと日本の若い芸術家が育ちません。特に日本美術への関心がますます廃れつつありますので、私一人でもと細腕でがんばっています」と、逞しい腕をご披露いただいた。
このサロンでは毎回、日本美術の若き、それもまだ原石ともいえる作家たちの作品が展示されている。ほとんど売れないケースもあり「くじけたらあかん」という青野さんの激励で明日に向かう作家が多いと聞く。その日本美術をなんとか米国でという志が、ついにこの春ニューヨーク・チェルシーに花開いた。米国のIPPODOだ。若い日本美術の発信基地とすべく、青野さんは東京〜ニューヨーク往復の超多忙な日々を送られている。
その青野さんにイタリア在住の芸術家をご紹介いただいた。彫刻家の奥村信之氏だ。といっても氏は日本ではほとんど知られていない。これもまた青野さんが歯ぎしりするところであり、私が日頃から言っている大手マスコミによる情報封鎖の実例だ。奥村氏はかの著名な彫刻家エミリオ・グレコの愛弟子で、イタリアではグレコの再来とまで言われている。2006年にローマ法王ベネディクト16世のブロンズ像を作成し、バチカン法王庁に奉納。これは法王庁が奥村氏を指名しての作品で、静かに賞賛されているという。
この作品がバチカン内に飾られていることは、日本ではほとんど報道されなかった。制作に時間とコストが掛かるだけに、日本の某大企業が支援したのだが、イスラム世界でのビジネスを配慮して積極的広報はしなかった。日本のマスコミは日本芸術家の快挙にもかかわらず、この大企業の思慮に遠慮してなのか、取り上げなかった。故にこのことを知る日本人は極めて少ない。
さらに驚くことにこの奥村さんの別の作品、かの名法王ヨハネ・パウロ2世像が、バチカン内の奥の間、ハート・オブ・バチカンと呼ばれる由緒ある部屋にベルニーニ作のウルバーノ8世像とともに飾られているという。あるのはこの2作品だけである。
青野さんは奥村作品の素晴らしさについて、今日も大放送局や大新聞社に説いて廻られている。その頑張りにエールを、である。
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